その他のコラム

【塾コラム】受験までの期間に応じて学習間隔を変える

やっと塾の先生っぽいコラムのタイトルですね。ここ天王寺のも多くの受験生がいると思うのでぜひ読んでください。

分散学習を研究した人

分散効果を日常の勉強に使えるようにしようと懸命に努力した人々には、一つの共通点がある。彼らは研究者であると同時に教師でもあった。学生が知識を詰め込んでも何一つ記憶にとどめておけないのは、一概に彼ら自身の責任とは言えない。

学んだことを記憶にとどめさせるような授業をするべきであり、そのためには間隔をあけて授業で復習すればいい。もちろん、何らかの復習はすでに授業に取りいれられていたが、教師の直感かカリキュラムの一環として行われることが一般的で、記憶の研究にもとづいて行われてはいない。

「私の心理学入門講義を受けておきながら、何も覚えていなくて翌年にまた履修する学生にうんざりしています」と、カナダのヨーク大学で心理学を研究するメロディ・ワイズハートは私に言った。

「そんなのは時間とお金の無駄です。せっかく高い学費を払っているというのに。それに教師としても、学んだことを覚えていられるような教え方をしたい。それが教師の務めです。

復習するタイミングが大切

天王寺の塾
要点を復習する最適なタイミングは、絶対に知っておくべきです。分散効果を踏まえると、一度教えた内容にどのタイミングで再度触れるのが最適となるのか。試験勉強はどういうスケジュールで行うのがもっとも効率的なのか。こういうことを把握する必要があります」

2008年、ワイズハートはカリフォルニア大学の同業者ハロルド・パシュラーとともに研究チームを結成し、先の疑問に初めてちゃんとした答えを与えるための大掛行った。まず、実験の被験者として幅広い年齢層から1354人を選んだ。選ばで作業する「遠隔調査」の協力者として、アメリカ内外から登録したボラは、翌のあまり有名でない事実を勉強することになった。

たとえば、「スパイスの効いたメキシコ料理がもっとも食べられているヨーロッパの国はどこか?(正解は)ノルウェー」「雪上ゴルフを考案した人は誰か?(正解は)ラドヤード・キプリング」「1492年にコロンブスが新大陸に向けて出港したのは何曜日?(正解は)金曜日」「スナック菓子『クラッカー・ジャック』パッケージに描かれた犬の名前は?(正解は)ビンゴ」というものだ。

被験者にはこれらを学習する機会が2回与えられた。グループAの被験者は、2回の学習時間のあいだに10分の休憩しか許されなかった。グループBの被験者は、1日あけて2回目の学習に取り組んだ。

グループ分けで研究

images-1
グループCは1カ月あけて2回日にのぞんだ。このように1回日と2回目の学習間隔をグループによって変え、最長間隔は6カ月となった。また、覚えたことの最終試験を受けるタイミングもグループによって変えた。こうして、パターンは全部で%種類となった。研究チームは10種類すべての結果を比較し、試験の日程に応じた最適な間隔を算出した。

「簡単に言うと、勉強時間を分散する最適な間隔は、いつまでそれを覚えていイズハートとパシュラーの研究チームはまとめた。

これらの数字は厳密ではなく、どちらの項日も切りのいい数字にしている。とはいえ、厳密な数値にかなり近い。試験が1週間後にあるときは、学習時間を2回に分け、今日と翌日、または今日と明後日に勉強する。学習時間をさらに1回増やしたいなら、試験の前日にするとよい。試験が1カ月後なら、今日勉強して1週間後にもう一度勉強するのがいい(学習時間が2回の場合)。もう1回増やすなら、そこから3週間ほどあけて、試験の前日に時間を設ける。

試験の日程が遠い(つまり、準備する時間がたくさんある)ほど、学習時間の1回日と2回日の間隔が広がる。試験までの時間と2回目の学習までの最適な間隔を割合で表すと、試験までの時間が長いほどその割合は減少することが、この実験で明らかになったのだ。

塾で難しい問題を覚えるときの勉強法

img_381c6c3df990c79adcf52a30e0abb2c3365992
学習時間の分散が学習にこれほど大きく影響する理由は、間隔の長さによって、作用する要因が変わるらしい。
これは天王寺にある塾でも理解している講師が少ないほど世の中には浸透していませんが。事実です。

秒単位や分単位間隔)で復習する場合は、短いあいだに何度も同じ情報が入ってくることで、脳がその情報に対する興味を徐々に失っていくことが考えられる。ジェームズ・モンローが第5代アメリカ大統領だという事実を知って保存したばかりのところに、同じ情報が2回、3回と繰り返されれば、脳はしだいに関心を払わなくなる。日単位、週単位といった中くらいの間隔になると、別の要素がかかわってくる可能性がある。

覚えるためには、一度忘れる

「覚えるために忘れる理論」を思いだしてほしい。忘却は、二つの形で学習を助けてくれる。つは、重複する情報や矛盾する情報をふるいにかけるという能動的な役割。もう一つは、運動して筋肉が増えるように、忘却によって情報を検索する機会が増え、記憶のより深い定着を促すという受動的な役割だ。第2章では、新たな隣人と初めて出会ったときの例を紹介した(「ジャスティンとマリアです」)。名前を聞いた直後は、検索の力が高いのですぐに思いだせる。だが保存の力は低いため、翌日の朝になると、口先まで出かかっているのに思いだせない。

少なくとも数日は、堀の向こうから「ジャスティン!」「マリア!」と呼ぶ声が聞こえないと思いだせない。要するに、名前を再度聞くことで検索(「そうだった、お隣さんは、ジャスティン・ティンバーレイクのジャスティンとマリア・シャラポワのマリアだった」)という脳内活動が誘発され、以前よりも検索の力が高まるというわけだ。筋力トレーニングに1日の中休みを挟めば、その間に筋肉の強度が増すのと同じだ。時間を分散した学習の多くは、たとえば、隣人の名前のようなケースも、第3章で述べたよう
第4章一度に勉強するより分けたほうが効果的
勉強時間を分散するな背景情報の一つになるというとらえ方もできる。隣人の名前を初めて知ったのはパーティの席った。そのときは、友人に囲まれておしゃべりをしていて、手にはワインの入ったグラスを持っていた。2回日は、堀の向こうで彼らが名前を呼びあうのを聞いた。

これにより、彼らの名前が組み込まれている状況は、一つだけでなく二つになった。これと同じことが、新たに学んだ単
報は当然取るに足らないものとなるが)。

無意識に覚えていく

studying-exams-music-playlist-e1410292707621
いま述べた現象はほぼ無意識のうちに起こる。意識しないところで起こるので、自分では気づない。1カ月以上間隔をあけた場合、それも3回以上学習時間を設けると、間隔をあけることメリットが明らかになるので気づくようになる。バーリック家の4人は、学習間隔が長くなるにつれ、自分にとって覚えにくい単語がわかるようになったという。

「次に学習するまでの期間が長くなれば、忘れる単語は増えるが、自分の弱点に気づいて修正できる」とハリーは私に言った。「それぞれの単語について、どの手がかり、どの関連性、どのヒントが思いだすきっかけとして機能するのかがわかる。それらがきっかけとして機能しなくなれば、新たに思いだすきっかけを見つける」

たとえば、専門用語が登場する難しい題材(新しいソフトウェア、保険の詳細、精神疾患の遺伝的特徴など)を一から勉強するとき、1時間勉強して翌日に復習し、いくつかの専門用語を覚えるといった勉強の仕方をすることはできる。だが、それでは実質何もしていないのと同じだ。

理念は馴染みのないものばかりなものに分類しても、どこに保存していいかもわからない。だから私は、そういうものと初めて対面するときざっと日を通すだけになった。初対面の人に挨拶を交わすようなつもりで、30分程度しか時間をかけない。2回日になれば(このときも10分)、
もっと内容に入り込めるとわかっているからだ。3回日(これもまた10分)は言うまでもない。こうすれば、それ以外の時間は一切使わなくても、多くを覚えていられるようになる。1990年代に入り、研究室での長い培養期間が終わると、分散効果はひとり立ちして成長し始めた。そしてその過程で、本当に筋肉がつくことが明らかになった。学校の授業で取りいれた報告が次々に押し寄せた。間隔をあけて復習したら、九九のテスト、科学のテスト、単語テストの点数がよくなったというものだ。

実際のところ、学習手法のなかで、時間を分散させることほど、すぐさま大幅かっ確実に学習
を改善できるものはない。それなのに、「間隔のあけ方」を教えてくれるマニュァルは、こきになってもまだ存在しなかった。復習するタイミングについても同じだ。試験の日程が決まっている場合、どのくらい勉強しない時間を設けるのが最適なのか?どのように計算すればいいのか?はたして、計算式は存在するのか?
一度に勉強するより分けたほうが効果的に塾での勉強時間を分散する。

【塾コラム】分散学習のソフトウェア 「スーパーメモ」の誕生

MS251_memotonewsp_TP_V
塾での勉強はどのくらいの時間が必要だと思いますか?天王寺にかかわらず、日本全国、どこに住んでいても全ての受験生の勉強に必要な時間は等しいと言えます。もちろん志望校によっては変わりますが、、

バーリック家族の研究にと同時に、、、

1982年、バーリックが家族を被験者にした実験に取りかかったのとほぼ同時期に、ピョートル・ウォズニアックという8歳のポーランド人大学生が、やりすぎとも言える自身の経験にもとづいてこの問いの答えを算出した。ウォズニアックは自身の勉強スピードから、英語で科学論文を読んだりほかの科学者と会話できるようになるためには、一日4時間の勉強を何年も続ける必要があると判断した。

だが、彼にはそれだけほど抱えているあいだは時間がない。だから、もっと効率のいい勉強法を見つける必要があった。あるかどうかもわからない方法なのだから、自らを実験台にして探すしかない。ウォズニアックはまず、覚えたい約3000の単語と1400の科学的事実を英語でデータベース化した。それを均等に3グループに分け、時間の分散の仕方を変えて勉強に取り組んだ。2日おき、4日おき、1週間おき、2週間おきというように、勉強時間の間隔を変えたのだ。そして、勉強の成果を詳細に記録し、新たに覚えた単語や事実が難なく思いだせるようになるタイミングを見極めようとした。

ついにはっきりとしてきたパターン

スクリーンショット 2018-03-28 17.21.34
記録をつけ始めると、しだいに一つのパターンが見えてきた。1回勉強すると、新しい単語を2、3日覚えていられた。そして翌日に復習すると、覚えていられる時間が1週間前後に伸びた。その1週間後にもう一度復習すると、1カ月近くたってもその単語を思いだすことができた。ウオズニアックは、流腸な英語を保つのに最適な間隔を見つけるため、進披状況を追跡できるようにコンピュータをプログラミングした。

「最適な間隔は、相反する二つの基準にもとづいて算出される」と、彼は当時書き残している。「勉強と勉強の間隔は、復習回数を最低にし、いわゆる分散効果が最大限に高まる長さであること。そして、覚えたことを思いだせるかどうか確認できる短さであること」

ほどなくして、ウォズニアックは彼が構築した学習システムのリズムに従って生活し、すべての教科の学習にそのリズムを適用するようになった。英語学習の実験からアルゴリズムが生まれ、それに従うことがいつしか彼のミッションとなった。
そして1987年、ウォズニアックはとうとう、そのアルゴリズムを「スーパーメモ」というソフトウェアにしてしまった。

「スーパーメモ」は、ウォズニアックの計算に準じて学習を支援してくれる。フラッシュカードとカレンダー機能がついていて、初めて単語を勉強した日を記録し、ウオズニアックが見つけた最適な間隔でその単語を表示する。

前に勉強して覚えた単語を、脳が検索して引きだせなくなる直前にスクリーン上に映してくれるというわけだ。使い方は簡単で、1990年代にフリーソフトとして誰でも入手できるようになると、中国やポーランドで英語を学ほうとする若者を中心に広まった(現在は、専用サイトとアプリで利用できる)。ウォズニアックのこのソフトは、実質、エビングハウスの実験をデジタル世代に向けて焼き直したものである。

彼が生みだしたアルゴリズムは、学習時間の間隔についての重要な問いにてくれた。外国語の語彙や科学の定義など、事実に関する情報を習得して記憶にとどめたいなら最初に勉強した1、2日後に復習し、その次は1週間後、その次は1カ月後に復習するのが最適だ。1カ月を過ぎると、復習する間隔はさらに長くなる。1992年になる頃には、研究室での関心の対象として始まった研究は、教育に活かせる可能性を膨大に秘めていると考えられるようになっていた。

やっぱり分散して勉強する方が良い?

buj0113-001
ある研究グループは、小学3年生に足し算を教える時間を毎日1回設けること5日間続けるほうが、毎日2回設けて10日間続けるよりもはるかに効率的だと実証した。別のグループは、細胞、有糸分裂、染色体といった生物の定義を中学生が学ぶ場合、1回の授業で学ぶよりも、間隔をあけて複数回に分けて学んだほうが記憶に残りやすいことを実証した。

そして、「スーパーメモ」のように、時間がたつにつれて学習の間隔を広げていくことが、知識を定着させるのにもっとも効果的だと思われるようになった。ネバダ大学の心理学者で分散効果に関する論文の査読者のひとりでもあったフランク・N・デンプスターは、分散効果のことを「学習に関する研究調査から生まれたもっとも素晴らしい現象の一つ」と評した。

年が明けた1993年、「バーリック家4人の研究」がある雑誌に掲載された。ウオズニアックのことを、流陽に使える状態の維持に必要となる最小限の復習回数を教えてくれた人物と見るなら、バーリック家の4人は、実生活に学習を取りいれた場合、学習間隔を最大限にあけることを提案してくれたと言える。

実験を始めてから5年後、パーリック家の4人はもっとも復習間隔をあけてのぞんだテストで最高得点を記録した。このとき彼らは、2カ月おきに10回復習した。この最終テストでは単語のgパーセントを思いだすことができ、2週間おきに10回復習してのぞんだテストでは、3パーセントしか思いだせなかった。

この実験を始めた当初は、2カ月復習しないでいたときのほうが、2週間おきに復習するのと比べて多くの単語を忘れた。だがその差はすぐに縮まった。何しろ4人は、1回の勉強にっき、リストにある単語をすべて覚えるまで勉強したのだ。実験の最終段階となり、2カ月の間隔をあけたときにはテストの成績が10パーセント向上した。「誰がこんな結果を想像できただろう」とパーリックは言う。「私は思いもしなかった。2カ月間隔があけば、すべて忘れるだろうと思っていた」

【塾コラム】塾の先生も参考にした「世界一の外国語習得法」とは?

Asian female college student making a presentation in classroom

Young Asian female college student making a presentation in front of classroom


天王寺の塾講師として働く私が世界一だと思う外国語習得法がある。私はそれを「ジェームズメソッド」と呼んでいる。この方法を実行したいなら、ジェームズ兄弟の学習法にならうだけでいい。教養が高く裕福な両親の元に生まれたへンリー・ジェームズとウィリアム・ジェームズは、幼い頃にアメリカとヨーロッパを行き来する生活を送り、外国の言葉を現地の家庭教師に教わった。ヘンリーとウィリアムの父親は、「五感に訴える教育」を息子に与えると決めていた。のちに小説家として有名になったヘンリーは、パリ、ボローニャ、ジュネーブ、ボンで家庭教師について語学を教わった。

外国語をマスターする

それぞれの地でまとまった時間を過ごし、大人になってからも定期的に訪れた。その結果、フランス語、イタリア語、ドイツ語を流陽に話せるようになった。

ジェームズメソッドは、幼少期の発達に外国語と一流の指導を組み込むというものだ。マルチリンガル家庭で育つこととまったく同じではないものの、それにかなり近い。子どもは、新しい言語を理解し使わざるをえない状況に追いやられるとーその言語で生活する国に住むとー、素早くその言語を吸収する。ジェームズ兄弟はそういう状況に置かれたと言っていい。大人と同じように英語でない動詞や名詞を覚えないといけなかったが、彼らの場合は、脳の言語をつかさどる領域がまだ発達段階のときにそれを行った。

そういう機会が得られれば最高だ。塾では生徒さんにそういった機会を与えてあげたいと思っている。

勉強で外国語を完璧にするためには、、、

images
それが得られない人、たとえば、ジュネーブ、パリ、テキサスなどで幼少時代を過ごし、ペルシア語を身につけたいと思っている人だ。五感にあまり訴えない方法で言葉を覚えることになり、しかもその大半の作業はで行わないといけない。それ以外に身につける術はない。裏技や秘密の暗号も存在しない。世界には、特定の職種に就きたいがために、外国語である英語を習得する人が大勢いる。

科学の仕事はもちろん、行政、1T、ツーリズム、貿易関係の仕事にも英語は必要になる。英語が母国語で教育を受けた人は、2、3万の単語に何百というイディオムや慣用句を知っている。ゼロから英語を学ぶ人にとっては、その半分を詰め込むだけでも大仕事だ。

ある調査によると、それだけ覚えるには、一日2時間の勉強を5年ほど続けないといけない。

それに、覚えればそれでおしまいというわけではない。例の「覚えるために忘れる理論」によれば、知識の保存と検索はまったくの別物である。「epitone」という単語を勉強した(脳に保存した)からといって、それを見聞きしたときに検索して引きだせるとは限らない。流陽に使えるようになるー永遠に増え続ける辞書がいつでも利用できて、瞬時に検索できる状態にな
ためには、単語を保存するための時間だけでは十分ではないのだ。

【塾コラム】バーリック家4人の研究って?

shutterstock_310072547-480x325
天王寺の塾での数学や英語の勉強はちょっと横に置いといて、ちょっとした小話も気分転換だと思って読んでみてください。

先に紹介したヘルマン・エビングハウスは、学習の科学に初めて「言語」を与えてくれた研究者だ。その言語は無意味な音節だった。彼は成人してからの大半の時間を、無意味な音節を作り、それらの順序を入れ替え、短いリストや長いリストにまとめることに費やした。

さらに、10分、あるそれ以上の時間を定めてリストを勉強し、その後覚えているかどうかのテストをし、覚えたリストと学習時間の長さに照らしてテストの結果を念入りに確認した。彼は複雑な記録をとり続けた。得た数値をすべて方程式にあてはめ、逆算してそれらを確認しては、学習に費やす時間を変えて再び覚え直してテストをした。

このテストの結果は、、、

彼の実験には学習時間の分散も含まれていた。そして、一日に3回繰り返し練習し、その翌日にもう7回練習すれば、Bの音節をすらすら書けるようになることがわかった。ところが、覚える時間を3日に分散すると、たった%回の練習ですらすら書けるようになった。「ある程度繰り返し練習する場合、一度にまとめて練習するよりも、練習時間を適切に分散したほうが明らかに効率が良い」と彼は書き残している。

エピングハウスは、学習という研究分野を創設するとともに、学習時間を分散することの効果も発見したのだ。しかし、彼の研究を引き継いだ科学者は、ほとんど進展のない調査を大量に実施しただけだった。優生学の信奉者として有名なオーストリア出身の心理学者アドルフ・ヨストは、間隔をあけた学習の効果について(無意味な音節を使って)独自に研究し、1897年に「ヨストの法則」として知られる理論を発表した。

「二つの連合があり、強さは同等だが古さが異なる場合、新たに反復する価値は古いほうが高い」というものだ。わかりやすく言い換えると、「新しい概念を学んですぐに復習しても、記憶の定着を高める効果はあまりなく、1時間後、あるいは1日後に復習すると定着が高まる」となる。

ヨストは基本的に、エビングハウスの実験の一つを再現したにすぎない。それでエビングハウスとまったく同じことを発見し、自らの名前をつけた法則として発表した。エビングハウスの実験から何一つ進展していないにもかかわらず、進展したように思わせることに成功したのだ。

驚くほど塾も天王寺も受験も全く関係ないが、、、これも気分転換の一つ。

ほかの心理学者たちはヨストにならい、まずは無意味な音節の数を増やした実験から始め、しだいに単語や対になる単語へと実験の対象を変えていった。ある意味、別世紀前半のあいだに、学習の科学に関する研究は後退したと言える。ヨストに追随した心理学者たちは、少数の被験者に「一覧にまとめて」もしくは「一つずつ順に」何かを数分おきに見せていた(実験によっては秒単位で見せることもあった)。実験の細部にとらわれすぎていたため、1960年の時点で彼らが実証できたのは、非常に短い間隔における分散効果がほとんどだった。たとえば、第5代アメリカ合衆国大統領はジェームズ・モンローだと続けて3回聞けば、しばらくは覚えている。だが、5分間隔をあけて3回聞くほうが、もっと長く覚えていられる。

心理学者も目をつけた

Fotolia_55210417_Subscription_Monthly_M-1024x689
こういうことは、5歳の弟との雑学合戦の前に知っていたら便利だ。とはいえ、短い間隔での効果はわかったが、もっと大きな問いの答えはまだわからない。分散学習は、学校や人生で役立つ知識の土台を構築し維持する助けとなるのだろうか?
1970年代に入ると、この問いの答えを見つけようとする心理学者がしだいに増え始める。何か大事なことが見過ごされていると感じたのだ。この分野における従来の研究全体に疑問を投げかける者が現れた。

エビングハウスの手法の信頼性も例外ではなかった。

すべてはベトナム反戦運動が起きていたあいだに始まった。疑問を抱いていた時期だと、オハイオ・ウェスレャン大学の心シリックは私に話した「そういう時則だったから、我々が抱いていたょうなシのシきだし、人々が声をあげるようになった。これまでずっと、この分野の巨人たちをみてきた、それでいったい何が生まれたというのだ。

教師も学生も、研究室で5分勉強していくつ単語を覚えられたかといったことに興味はない。知りたいのは、シファツ。ドイツ語の習得にどのような影響を与えるのか、数学や科学の理解にどう影響を与えるか。だが、我々はそうした疑問に答えらなかった。

答えるためには、これまでとはまったく違うことをする必要があった。

パーリックは、研究室で明らかになったことの延長に興味はなかった。間じられていシけ放して新しい空気を入れる、それが彼の日的だ。だから、ユゼッグハウスは人の影響や思想を払拭し、週、月、年単位というように、実生活での学習を試したいと考えていた。分散学習は、自動車整備や音楽の技術を身にっけるときに。貢献をするのか?役に立つのか、それとも、取るに足らない程度のメリットしかないのか。この間いに自信を持って答えるためには、職場や新聞や友人から手に入れること。知識の習得を試す必要があった。

パーリックは、その知識に外国語を選んだ。彼が思い描いた実験を行う必要があった。何年にもわたって実験に協力し、途中で投げださない人、自分の行動について嘘の申告をしない人。

この実験の名前の由来

ad006
できれば、自分を律して勉強できる人が望ましい。結局、被験者は彼の妻と子どもたちに落ち着いた。バーリック家は心理学者一家で、妻のフィリスはセラピスト、娘のロレインとオードリーはともに大学の研究者。まさに理想的な被験者だ。「家族が心からやりたかったかどうかはわからないが、私を喜ばせたかったのだと思う。

自ら4人目の被験者となったハリーは私にそう言った。「それから数年にわたって、この実験は家族の楽しいプロジェクトとなった。悪のときは必ずこの話題が持ちあがり、実験にっいてたくさん語りあった」実験の基本ルールは、フィリス、オードリー、ロレインの3人はフランス語の単語を勉強し、ハリーはドイツ語を勉強するというものだった。ひとりにつき未知の単語を300用意し、それを各自で%個ずつ六つのリストに分け、所定のスケジュールに従って勉強する。

スケジュールはリストによって異なり、2週間おきに勉強するリスト、1カ月おきに勉強するリスト、2カ月おきに勉強するリストというふうに分かれていた。片面にフランス語(ドイツ語)、もう片面に英語が書かれた単語カードを使い、リストにある単語すべての意味を覚えるまでを1回あたりの勉強時間とした。勉強時間の大半は、単純な作業になる。退屈でしかない。時間をかけて勉強する見返りは何もない。だが、それが始まりであったことは確かだ。長期的に学習時間を分散した場合の効果を本当に探る実験が(彼らはこの実験を「パーリック家4人の研究」と呼んだ)、とうとう始まったのだ。

【塾コラム】なぜ分散効果は 世の中に伝わらなかったのか

以前の「分散学習」の続きのお話です。天王寺の塾でもこの法則を知っている塾講師は少ないでしょう。しかしこれは事実です。

これほど頼もしい原則であれば、直ちに研究室から学校の教室に伝えられたはずだ。余分な時間や努力を費やさずに学習効果を高めたくない学生がどこにいるだろうか。

天王寺でも広がらなかった分散学習

f69ac5c4ae8cf700cb1e46986efcf888
だが、その原則が教室に伝えられることはなかった。そんとした理由がある。まず親なら誰もが納得できると思うが、子どもを1回別に向かわせるだけでも大変なのに、それを何回も向かわせるのは無理な相談だった。また、この100年、分散効果の研究は、研究室での小規模の実験にとどまっていた。言ってみれば、医師が糖尿病の治療薬を発見したのに、患者にその治療を施すことなく、薬の分子構造の特定に%年かけているようなものだ。学習時間を分散する最適な間隔について研究されるようになったのは、ここ数十年のことだった。毎日少しずつ、一日おき、週に一度:。いったい、どの勉強の仕方がもっとも効率が良いか?今日が火曜日で、金曜日に歴史の期末試験があるとしたら、どう勉強時間を分散させれのか?試験が1カ月後の場合はどうか。試験までの期間に応じて、勉強時間を分散させ間隔は変わるのだろうか?

分散学習の歴史は、研究成果、とくに本書で紹介する類いの研究成果の受けとめられ方を如実に表す実例だと私は思う。科学という学問は、過去の実験から得た証拠の上に築きあげられてきた。可能であれば、分析、再現、適用範囲の拡大をするのが科学だ。

この伝統の価値は計り知れない。おかげで、科学者たちに共通の言語やッールが生まれ、イギリスのスミス博士にも、アメリカのインディアナポリスにいるジョーンズ博士が研究論文に記した「対連合テスト」の結果に関する記述を理解することができるのだ。

こうして、一度に勉強するより分けたほうが効果的勉強時間を分散する。

どんな教科にでも言えることです。

塾の先生
どんな分野にも見解の一致した調査結果という土台を築くことは不可能だ。研究者たちは独自の直感に従って行動し、独自の実験手法やツールを開発するだろう。その結果、ほかの研究と関連性があるかどうかわからない調査結果が大量に生みだされる。しかし、この伝統は足かせともなりうる。

分散効果は世に出ることなく、何十年にもわたって難解な刊行物で議論されるだけにとどまった。この閉じ込め状態が解消されるのには、程度の差はあれ、ベトナム戦争による社会的な混乱、根気よく実験を続けたポーランドのティーンェージャーの研究、ベテラン研究者による苛立ちが必要だった。
そのベテラン研究者は、「これを実生活でどのように活用できるのか?」という根本的なを口にしたという。この問いは、学習の改善につながるありとあらゆる科学に対して投げかけられるべきだと私は思う。

そしてこの問いのおかげで、研究者の興味の対象でしかなかった分散効果が、私たちが実際に有効活用できる何かへと変貌を遂げることとなった。

大阪天王寺のある学習塾が教える「分散学習」は一夜漬けに勝る

分散学習
記憶の研究でもっとも古くからある学習テクニックの一つは、もっとも強力かつ信頼性が高く、使い勝手がよいものの一つでもある。100年以上前から心理学者たちのあいだで知られ、外国語の単語、科学用語、概念、公式、楽譜といった暗記する必要のあるものの学習を深める効果があると実証されている。
にもかかわらず、教育の本流では無視され続けてきた。学習カリキュラムに組み込んでいる学とはいえ、平然と聞
校は皆無に近いので、このテクニックを知っている学生もほとんどいないき流していた母親のアドバイスに、次のようなものがあったのではないか。

天王寺のある塾が教える分散学習、分散効果とは

「ねえ、一度に全部勉強するより、今晩少し勉強して明日もまた少し勉強する方がいいんじゃない?」
じつはこのテクニックは、分散学習や分散効果と呼ばれている。一気に集中して勉強するのと、勉強雕時間を「分散」するのとでは、覚える量は同じでも、脳にとどまる時間がずっと長くなるのだ。!母親のアドバイスは正しい。今日少し勉強し、明日また少し勉強したほうが、一度に全部するよりいい。そのほうがはるかにいい。場合によっては、後から思いだす量が2倍になることもある。詰め込みは無意味だと言いたいのではない。徹夜で勉強することの効果は、翌日の試験の点数が向上するという記録が昔からあるので実証ずみだ。ただし、前夜のラストスパートの信頼性に#sついては、荷物を詰め込みすぎた安物のスーツケースみたいなところがある。入りはするが、し|ばらくするとすべて落ちてしまう。る学習の研究者によると、一気に詰め込む勉強を習慣にしていると、新しい学期を迎えたときに、#成績がガタ落ちする可能性があるという。それをした学生は、「次の学期が始まる頃には、前のẽ学期に覚えたことを何一つ思いだせない」と、ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学の
心理学者、ヘンリー・ローディガー山世は私に話してくれた。「その授業をとったことがないかのような状態になる」
分散効果は、新しいことを覚えるのにとくに有効だ。たとえば、電話番号かロシア語の単語が

試験でも良い成績を残しやすい

塾のテスト
この方法は塾のテストでも学校のテストでも効果が出ている。

8個並んだリストを2種類用意する。一方のリストはその日と翌日にm分ずつ覚える時間を設け、
もう一方のリストは翌日に10分かけて覚える。そして、1週間後に両方のリストをどれだけ覚えているかテストする。明らかに違いが現れるはずだ。ただし、なぜそうなったかははっきりとはわからない。私は、分散効果と聞くとロサンゼルスでの芝の手入れを思い浮かべる。ロサンゼルスは海沿いにある街だが、湿度が低く雨もほとんど降らない。そして、この街には芝を美しい状態に維持する慣習がある。私はそこに住んでいた7年のあいだに、芝の緑を維持するためには、週に1回1時間半の散水よりも、週に3回10分散水するほうが効率的だと学んだ。芝を水浸しにすると、翌日は芝が多少活き活きしたように見えるが、その輝きはすぐに失われる。一方、数日おきに適量の水を与えていれば、隣人に会っても伏し日がちにならずにすむ。水の量は、週に1回のときと
同じか、それよりも少なくすむ。分散学習もこれと同じだ。勉強時間を分散させるからといって、
勉強時間は増えない。より多くの努力が必要になるわけでもない。にもかかわらず、覚えたことをより長く記憶にとどめておけるようになるのだ。

【塾コラム】複数の知覚を関連づけるのがカギ

wood-cube-473703_640-e1435780061148
教科書を見て、覚えるときに活かせるパターン、または数字や文字の分類方法がないか探してみてほしい。降参だろうか?降参して当然だ。覚えやすくなるパターンは一切存在しない。そもそもこの表は、そういうパターンが存在しないように作られたものなのだ。できるだけ覚えづらい、無作為な数字と文字の羅列にすることが作成者の意図だった。1920年代の中頃、モスクワ大学の神経心理学者アレクサンドル・ルリヤは、記憶に研究するなかでソロモン・シェレシェフスキーという新聞記者に出会った。シェエは地域紙の新聞記者として働いていたが、彼は編集長が疑念を抱くような態度をとっていた。そベ
ント、人、記事になりそうな話題など)を伝えていた。記者はみな凡帳面にメモをとっていたが、シェレシェフスキーだけは別で、メモ用紙すら持ってこない。編集長はそれを怠慢だと思エレシエフスキーを問い詰めた。

メモをとる必要がないのです、というのがシェレシェフスキーの返答だった。何でも覚えてしまうと彼は言う。そして、その朝に言われたことをすべて復唱した。間違いは一つもない。前日の朝に言われたことも、その前でも覚えてしまうのです」という言葉どおりだ。彼の類いまれな能力に驚いた編集長は、ルリャに会いに行くよう彼に勧めた。

そうして、ふたりの有名な共同研究が始まった。その後Q年にわたって、ルリヤはシェレシェフスキーにさまざまな実験を繰り返し試し(プライバシー保護のため、論文のなかでは彼のことを「S」と呼んだ)、最終的には、量も正確さも最上級の記憶の全容を探究することとなった。Sの記憶の特徴は、説明できる範疇を超えているようだった。彼は無作為
にした。

確かに「何に並んだ数字の表をB分で覚え、1週間後、1カ月後、いや、m年後になってもその表を思いだすことができたのだ。覚える対象が、単語、詩、短編になってもそれは変わらず、母国語のロシア語ではもちろん、イタリア語など彼がまったく知らない外国語でも覚えることができた。

ルリャはSの記憶のさま野清訳、岩波現代文庫)に詳しく描かれていて、Sには「共感覚」と呼ばれる能力があったことが明らかにされている。これは、複数の種類の知覚で恐ろしく鮮明に感じとる能力を表す。たとえば、音を聞いたら形や色を感じとり、文字を見れば味や匂いを感じとるという具合だ。

「数字を見ても映像が浮かぶ」とSはルリヤに言った。「たとえば数字の1。これは、誇り高くがっしりとした体つきの男性。数字の2は気高い女性で、3は塞ぎ込んだ男性。
太った女性と日ひげをカールさせた男性が浮かびます。

数字に似っかわしくない手がかりと一緒に数の一つひとつを記憶していた。その手がかりには、心のなかで生まれたイメージや、それを記憶したときの環境に関係すること(ルリャの声の調子など)も含まれる。

Sは、単語も数字も声も完璧に覚えているため、同じ場所で二つのことが同時に起きたときなどはとくに、一つのことを思いだそうとしても、もう一つのことまで思いだしてしまうことがよくあった。だから、関係する記憶を遮断する努力をする必要があった。「何かを書きとめれば、それを覚えておく必要がないということになります。ですから、電話番号や会った人の苗字など、ちょっとしたことを書きとめるようになりました。でも、どうにもなりませんでした。書きとめたこともずっと頭のなかで見え続けるのです」と彼はルリャに話した。sには、一般に備わっている忘却のフィルターがなく、そのせいで苛立ちを感じることがよくあった。

higbie-theory1
1939年5月、ルリャはSに数字とアルファベットの行列を覚えさせる実験を行った。Sはその行列を3分間じっくりと見た。短い休憩を挟んでテストをすると、彼は一切間違わずに暗唱した。行から行、列から列、あるいは斜めでも暗唱できた。数カ月後、ルリヤはこの行列表の確認テストを、Sに事前に知らせず実施した。

「違いは唯一つ。最初の実験で覚えたときの状況全体を『よみがえらせる』ための時間が、2回日のほうが多く必要になったということだけだ」とルリャは書いている。「表を覚えた部屋を『見る』ため、そのときの私の声を『聞く』ため、黒板を見ていた彼自身の姿を「再現」するための時間が必要だった」。sは、5月m日に表を覚えたときの状況を再現して表を思いだしたのだ。

Sの能力は驚異的で、彼が思いだす方法は常人にはとても真似できない。覚えたときの状況をほほそっくりよみがえらせることはできないし、仮にできたとしても、表を正確に最初の状態に戻すことは不可能だ。私たちの思考は、Sと同じようにはいかない。とはいえ、複数の知覚(見たこと、聞いたこと、感じたこと)を使うという彼のやり方は、背景情報の活用の仕方の参考になる。特定の記憶に複数の知覚を関連づけることなら容易にできる。単純に、覚えるものによって覚える場所を変えればいい。

【塾コラム】勉強の場所を変えたほうが思いだしやすくなる

01
この単純な変化によって、どのくらい思いだしやすくなるのか?
1970年代半ばになると、3人の心理学者がこの間いに答えるための実験を行った。スティーヴン・スミスとロバート・ビョーク、そしてアーサー・グレンバーグは、当時ミシガン大学で研究していた。この3人は、同じものを場所を変えて2回覚えたらどうなるのだろうと考えた。

そして、学生を集めて4文字からなる10の単語(「bal」や「fork」など)を見せた。グループAの学生にはm分の学習時間を数時間あけて2回与え、その半数は地下にある雑然とした小さな部屋で、残りの半数は窓から庭が見えるきれいな会議室で覚えさせた。グループBの学生にも同じ学習時間と同じ回数を与えたが、1回日は窓のない小さな地下の部屋、2回日は庭の見える窓がある部屋だった。2グループに、同じ単語を、同じ順番で、同じ時間をかけて覚えさせた。ただし、グループAは2回とも同じ環境で、グループBは異なる環境が設定された。

「実験を主導する者として、自分自身のことも実験環境の一部であるとみなしていた」とスミスは私に言った。「窓のない地下の部屋では、長い髪はほさほさのまま、ネルシャッにワークプーツという普段と同じ格好をした。

きれいな会議室のほうでは、髪を後ろに束ね、父が私のバルミツバー(ユダヤ人特有の成人の儀。男子は8歳のときに行われる)で着たスーツを着てネクタイを締めた。両方の部屋で勉強した学生のなかには、別人だと思った者も何名かいた。2回日の学習時間が終わると、それぞれの単語にポジティブまたはネガティブな意味を模索した。

以上、単語について考えたり、覚えているか確認したりする必要がないと思わせるためだ。には、課題はそれで終わりではなかった。3時間後、実験の第3段階として、学生たちにm分の制限時間を与え、覚えた単語をできるだけたくさん思いだして書く課題を与えた。このテストは、ごく普通の教室という中立の部屋で実施された。

15483799
背景情報の研究のときのように、環境を再現することはなかった。この第3の部屋に入ったことのある被験者はひとりもおらず、彼らが勉強に使ったほかつテストの点数にいれた。2回とも同じ部屋で勉強したグループは、10単語のうち平均5個思いだした。勉強する部屋が変わった学生は、平均8個思いだした。単純に勉強する場所を変えただけで、思いだす数が10パーセント以上増えた。

論文の言葉を借りるなら、この実験によって、「被験者を取り巻く環境の変化に伴い、思いだす力に大きな改善が見られることが明らかになった」のだ。勉強する部屋を変えたほうが、同じ部屋で勉強するよりも思いだしやすくなるその理由は誰にもわからない。一つの可能性としては、最初の部屋で勉強したときに—-する情報と、それとは若干異なる別の部屋で覚えたときに付随する情報が、脳内で別々に記れていることが考えられる。この2種類の情報には重なる部分があるが、情報は多いほうがいあるいは、2種類の部屋で覚えることで、勉強した単語、勉強中に目や耳に入った事実、勉強中に思ったことを思いだす手がかりの数が2倍になるのかもしれない。

たとえば、最初の部屋で「fork」を覚えたときは、ベージュの壁、蛍光灯、乱雑に積み重ねられた本がその記憶を彩り、次の部屋で「fork」を覚えたときは、窓から降り注ぐ太陽光、庭に立つ立派なオークの木、空調の音が結びついているかもしれない。そうすると、「fork」には2種類の知覚の層が組み込まれるので、勉強したときの環境を脳内で「よみがえらせ」て、単語もしくはその意味を思いだす機会が少なくとも2回生まれる。1号室の記憶がダメなら、2号室の記憶から想起を試みるというわけだ。

【塾コラム】マリファナを使ったアメリカ政府の実験があった!

rikezyo
言うまでもありませんが、危険ドラッグやマリファナなどは絶対に使用してはいけません。天王寺の私の塾の教え子たちはそんなことをするとは思いませんが、、、。
使ってもいいと言う記事ではないので、一つの歴史の授業のような気持ちで読んで下さい。

1975年、アメリカ国立精神衛生研究所でジェームズ・エリック・アイクが中心となり、マリファナが記憶の保持(ここでもまた単語の一覧だ)に与える影響を調べる実験が実施された。この実験を通じて、ドラッグの摂取によって、新たに勉強した情報を処理する脳にどのような変化が表れるかについても調べることになっていた。

アイクらは、10人の大学生もしくは卒業間もない元学生を集めると、彼らを研究室に招きいれてマリファナタバコを全員に与えた。といっても、本物のマリファナはそのうちの半分で、残りは「マリファナタバコの偽薬」だ。偽薬は見た目も匂いも本物そっくりだが、薬理作用のあるTHC(テトラヒドロカンナビノール)は一切含まれていない。「被験者は、タバコを深く吸い込んだ状態を8秒間維持するという行為を10秒ごとに繰り返した」と論文に記されている。タバコに専用のホルダーを付けて1本まるまる吸ってもらうのに、約8分を要した」。被験者は、マリファナを吸うのが初めてではなかった。平均して週におよそ5回吸っている。吸い終えて10分もしないうちに、被験者は徐々にハイになっていった。

その判断は、被験者自身の判断と脈拍などの物理的な計測にもとづいて下された。偽薬を吸った被験者には、生理的な変化は表れなかった。この時点で、10人すべてが勉強に取りかかった。被験者は紙を渡され、1分半のあいだに10の単語を覚えるようにと言われた。単語はカテゴリー別に並んでいた。「乗り物路面電車、バス、ヘリコプター、電車」「楽器チェロ、オルガン、トランペット、バンジョー」という具合だ。カテゴリーに分けたのも実験の一環だった。私たち人間は、長く連なった何かを覚えるとき、パターンを探そうとする。よく似た綴りや響きの単語、関連性のある言葉を、同じグループにまとめようとする傾向があるのだ。

カテゴリーを設けたのは、マリファナの摂取が、後で単語を思いだすときに活用するそうした高次の手がかりに影響を与えるかどうかを確かめるためだ。10秒の制限時間が来ると、被験者に配られた紙はすべて回収された。4時間後、ドラッグの影響が表れなくなると、被験者は研究室に戻って再びマリファナを吸った。今回は、最初に本物のマリファナを吸った人の半分に偽薬を吸わせるというように、最初と違うものを半数の被験者に吸わせた。そして10分後、一切復習させずに確認テストを実施した。

半数の被験者のテストは、6分間でできるだけ多くの単語を思いだした順に書くという「自由再生方式」で行った。残りの被験者には、カテゴリー(「乗り物」など)が記載されている用紙を渡し、それを見て思いだした単語を書くという「手がかり再生方式」でテストをした。

そして案の定、自由再生方式でテストを受け、2回とも本物のマリファナを吸った被験者のほうが、2回日は偽薬を吸った被験者よりも%パーセント多く思いだした。これほどの差は見られなかったが、勉強のときに偽薬を吸ったグループの場合も、テストの前も偽薬を吸った被験者のほうが、テストの前に本物のマリファナを吸った被験者よりも点数が高かった。

47c08e2736dfbf4a00da8e0898d7b8bf

つまり、被験者の記憶は、単語を覚えたときと脳が同じ状態になったときに最大限に機能し、ハイになるかどうかは関係がな
静かな環境で勉強するのは非効率ではなかったということだ。なぜそうなるのか?その答えは、手がかり再生方式のテストが教えてくれた。こちらのテストの点数は総じて高く、本物のマリファナを吸ったことや吸ったタイミングでの差は見られなかった。

このことから、ハイになっていてもいなくても、脳に保存される単語の数はおおむね「同じ」だとわかる。マリファナを吸っても吸わなくても、単語は脳のなかにあるのだ。ただし、後からそれを思いだすときのために、脳は独自のやり方で単語を整理する。そして、「思いだす手がかり」がいちばんはっきりと現れるのが、それらを覚えたときと脳が同じ状態になったときである。

ハイになっていようと冷静でいようと関係ない。一方、テスト用紙にカテゴリーがすでに記載されていると、脳内の手がかりは不要なものとなる。脳から引っ張りだすより、目の前にあるものを使うほうがずっと楽だ。この実験の論文にも記載されているように、脳に組み込まれた。手がかに同じ状態を復元したからといって、必ずしも引きだされるとは限らない。