「隠喩」という言葉について説明しておこう。
少し大学受験とは話が逸れますが、少し休憩という意味で楽しんで読んでもらえればと思います。
塾の先生というよりは能に詳しい学者さんのような文章ですが気にしないでください。
さて「隠喩」が何を表現しているかは、その定義上、不明確である。
はっきりとそこにあるものの、それが何かは曖昧でしかない。
それに、隠喩は目的を満たすため、ご都合主義になりがちだ。
言ってみれば、脳内化学物質の不均衡によってうつ病になるという理屈で、抗うつ剤の使用を認めるのと同じだ(うつ病の原因も、抗うつ剤の効果が表れる理由も明らかになっていない)。
それならそれで文句はない。自分ドキュメンタリーの映画製作チームの隠喩は不正確なものだ。
しかしそれは、記憶という生命現象に対する科学者の理解も同じだ。
科学者にできるのはせいぜい、学習にとって大事なことを浮き彫りにすることくらいなので、映画製作チームの隠喩が不正確でも文句は言えない。
脳内の記憶
それでは、脳内にある具体的な記憶をさかのぼり、記憶の仕組みを見てみるとしよう。
せっかくなので、思いだす対象はおもしろいものにしたい。
オハイオ州の州都、友人の電話番号、映画『ロード・オブ・ザ・リング』でフロド役を演じた俳優を思いだすのではつまらない。
高校生活の初日を思いだしてみてほしい。
廊下に足を踏み入れたときの緊張感、横目で見ていた上級生の存在、ロッカーの扉をバタンと閉める音。
15歳以上の人なら誰もが、その日のことを、 たいていの場合は1本の動画のような形で思いだす。
脳内にあるその記憶は、細胞が結合してできるネットワークという形で存在する。
そのネットワークを構成する細胞は、結合すると活性化する(脳科学の世界では「発火」という言い方をする)。
クリスマスの時期にデパートのショーウィンドウに飾られる、イルミネーションを思い浮かべてみてほしい。
クリスマスのイルミネーションは、青の光が点灯したらソリが現れ、赤が点灯したら雪の結晶が現れる。
脳細胞のネットワークもそれと同じで、脳が読み込んだ画像、思考、感情のパターンをつくりだす。