さて、学問としての考え方を追求することは一休みして、ちょっとした実験をやってみよう。簡単なので、課題に取り組むような気持ちにならずにすむはずだ。
いまから楽しい読み物を二つ紹介する。楽しいと思ってもらわないと困る。というのは、どれだけ足元がふらつこうとも、野性味あふれるユーモアを書かせたら世界一だと私が思う作家の作品だからだ。その作家とは、プライアン・オノラン。ダブリンで役所の職員として長年働いていたが、変わり者でしょっちゆうパブに入り浸っていた。1930年代から1940年代にかけてフラン・オブライエン名義で小説や戯曲を執筆し、また、マイルズ名義で『アイリッシュ・タイムズ」紙に連載していた風刺のきいたコラムはとりわけ世間から愛された。
実際に体験してみよう
それでは、次の2種類の文章を読んでもらいたい。それぞれ読む時間は
5分とするので4、5回は読めると思う。両方とも読み終えたら本を置き、仕事や用事などに取りかかってもらえばいい。どちらの文章も、オノランがマイルズ名義で書いたコラムを集めた作品集『The Best of Myles』の「退屈な人々」という章に収録されたものの抜粋だ。
荷造りができる男
この怪物は、あなたがアタッシュケースに衣装ダンスニつぶんの荷物を詰めるところをじっと見ている。もちろん、荷物はちゃんと入ったが、ゴルフクラブを入れ忘れてしまう。
あなたが険しい顔で悪態をついている一方、その「友だち」は嫡しそうだ。彼にはそうなることがわかっていたのだ。あなたのそばへやって来ると、慰めの言葉をかけ、「後はうまくやっておくから」と言って下でくつろぐようあなたを促す。
数日後、グレンギャリフに着いてカバンを広げたあなたは、ゴルフクラブだけでなく、寝室のカーペット、家で作業していたガス会社の作業員のカバン、装飾花瓶がニつ、カード用のテープルまで入っていると知る。
家で目に入るものすべてが入っているのだ。唯一入っていないのはカミソリだけだった。このガラクタをすべて家に持ち帰るには、自宅のあるコークへ7ポンドを送金して新しい革のカバン(という名のダンボール)を手に入れねば最善のテスト対策は、自分で自分をテストするならない。
靴底を自分で付ける男
現代の靴の質について不満をもらすからといって、とくに深い顔をしかめて剥がれた靴底を見せながら、「明日修理に出さないやいただけだ。
この受け身の姿勢に驚情するのが怪物だ。いつの間にかあなたを橋座らせて靴を脱がせ、それを手に流し場へ消える。
恐ろしく短いあなたに靴を履かせ、「これでもう新品も同然だ」と言う。彼のにふと目を向けた瞬間、あなたは彼の足が変形している理由を悟った。帰りの道中、あなたは足元がおぼつかない。竹馬に乗っている脳な感じがするのだ。靴底を見るとおがくずとセメントをニスで固めた3センチもの厚さの「革」が貼りつけられている。
読み終えただろうか?『妖精の女王」(邦訳/エドマンド・スペンサー著、和田勇一、福田昇八訳、ちくま文庫)のような大作ではないが、ここでの実験では十分だ。5分ずつかけて両方を読み終え、1時間後にもう一度文章1を読んでほしい。先ほどと同様に5分かけて繰り返し読む。後からテストするつもりで読んでもらいたい(実際にそうしてもらう)。
5分たったら休憩をとる。おやつをつまんで一休みしたら、文章2に移る。ただし、もう一度勉強するのではなく、自分で自分をテストする。何も見ずに、文章2の文言を思いだせるだけ書きだすのだ。10語でもいい。3行ならもっといい。書きだしたら、見直しをせずにすぐに紙をどこかへ片づける。
そして翌日になったら、両方の文章を自分でテストする。それぞれの制限時間を決めて(たとえば5分)、思いだせるだけ書きだすのだ。どちらの文章のほうがたくさん思いだせただろうか?結果に日を凝らし、思いだせた語句の数を数えてみてほしい。
数えているあなたの後ろから用紙を祀かなくても、私にはどちらをたくさん書けたか見当がつく。文章2のほうが圧倒的に多く書けたのではないか。この実験は、カーピック(現在はパデュー大学に在籍)とローディガーのふたりが共同で行った実験と基本的に同じだ。
彼らは、10年ほど前から継続的に行っている研究でこの実験様式を活用している。あらゆる年齢層の学生に何かを覚えさせる実験を繰り返し行っているのだ。覚えるものは、散文、対の単語、科学の話題、医療の話題など多岐にわたる。いまから、彼らの実験の一っを紹介しよう。それを見れば、自分で自分をテストする効果がよくわかる。