「脳の機能が二つに分かれているなら、なぜ脳は一つだという感覚が生まれるのか?」
それが明らかになるにはさらに25年を要した。根本的な疑問を提示する科学者が現れなければ、解明されることはなかっただろう。その疑問とは、「脳にふたりの操縦士がいるなら、脳が二つあるように感じないのはなぜだろう?」というものだ。
「突き詰めればこの問いになった」とマイケル・ガザニガは言う。彼は1960年代に、ロジャー・スペリー、ジョゼフ・ボーゲンとともにカリフォルニア工科大学で研究を行った人物だ。
上記の問いは、何十年ものあいだ、脳科学分野の未解決問題としてついてまわった。調べれば調べるほど、謎は深まるばかりだった。左脳と右脳の違いから、両者の働きが驚くほどきっちりと分かれているのは明白だ。しかし、込み入った役割を果たす場所が次から次へと見つかった。脳には特定の機能を担う部位が何千、いや何百万とあり、それぞれが特有の役割を果たしている。
たとえば、光の変化を計算する部位もあれば、声のトーンを解析する部位、表情の変化を検知する部位もある。科学者たちが実験をすればするほど、特定の機能を有する部位がいくつも見つかった。見つかったものはすべて同時に活動していて、そのほとんどが左右両半球をまたいでいた。つまり脳は一つだという感覚は、左右半球が協力しているときだけ生まれるのではない。シカゴ商品取引所での公開セリのように、あらゆる方向からニューロンの声が飛び交っているときでも生まれるのだ。でもどのようにして。。。?
その答えもまた、分離脳患者が教えてくれることになる。
1980年代前半、ガザニガは分離脳患者に対してさらなる実験を行った。今度はちょっとした たひねりを加え、患者に1枚の絵を見せるのではなく、左半球の脳には鳥の足の絵を、右半球の脳には雪景色の絵を見せた(確認しておくが、言語をつかさどるのは左半球であり、右半球は総じて感覚的で、見たものを言葉にする働きは存在しない)。それから、両半球で見えるように、フォーク、 スコップ、鳥、歯ブラシの絵を並べ、先ほど見た絵に関係するものを選ぶようにと告げた。すると、患者の男性は足の絵に関連するものとして鳥の絵を、雪景色に関連するものとしてスコップを選んだ。ここまでは順調だ。
次に、ガザニガはその男性にそれらを選んだ理由を尋ねた。すると意外な答えが返ってきた。
鳥を選んだ理由は、絵で見た足にマッチするからだという。足の絵を見たのは彼の左半球の脳だ。そこには、絵を描写する言葉も、鳥と結びつけるしっかりとした根拠もある。
しかし、左半球の脳は雪景色を見ていない。見たのはスコップだけだ。彼は本能でスコップを選んだのだが、選んだ理由は彼自身にもわからなかった。絵との関連性を説明するようにと言われ、左脳で雪を表す言葉を検索したが、彼には何も見つけることができない。スコップの絵に目を落としながら、彼はこう言った。「鳥小屋を掃除するのにスコップが必要になります」
脳の左半球は、自ら見ることができたスコップにもとづいて、もっともらしい説明を口にしたのだった。「左半球はでたらめを言ったにすぎない」当時の実験を思いだして笑いながら、ガザニガは私に言った。「ストーリーをつくりあげたんだよ」
その後も同じ実験を続けたところ、必ず同じことが起きた。左半球は、手にした情報を使って顕在意識に嘘をつく。これは日常生活のなかで頻繁に起きているので、誰もが経験しているはずだ。たとえば、誰かが会話のなかで自分の名前を出したのが聞こえたら、何を言われているのかを想像で決めつけることがある。
脳内でさまざまな声が飛び交っても整然としているように感じるのは、ストーリーをつくりあげている部位やネットワークがあるからなのだ。「解明につながる問いかけを見つけるだけで25年かかった」とガザニガは言う。「その問いとは『なぜ?』だ。なぜスコップを選んだのかと尋ねればよかったのだ」
大学受験生は患者ではないが、、
受験生は患者ではありませんが、学習と脳には深い関わりがあるので切っても切り離せません。これから受験を受ける方、高校に入って大学受験に目を向けなければいけないかた、
様々な人が脳に対して関心を抱く必要があります。