リーの名称など、思いだす直接かりのを与えれば、それが脳内の手がかりにあっさりと打ち勝つ。そして、アやマリ以外のドラッグについても研究が進んでいった。いずれの効力もあまり強くないことがわ脳内の手がかりも外的な手がかりも、ともに思いだすきっかけとなりうるが、強力な手がかりが現れれば、その存在はかすんでしまうのだ。
外的な手がかりや脳内の手がかりを探しているときの脳のふるまいは、キョロキョロと周囲をうかがう食事相手のようだと言える。食卓の中心となっている会話(宿題の内容、覚えないといけない楽譜や事実など)を絶えず追いながら、ときどき会話に参加する。
その一方で、定期的に素早く周囲を見回したり室内を観察したりしながら、見聞きしたものや匂い、そのときの体内の反応、感情、感覚などのメモをとる。流れているBGM、ロウソクの炎のゆらめき、空腹感など、その出来事の特徴となる情報は、後から会話のポイントを思いだすときの役に立つ。
未知のことが話題であればなおさらだ。ただし、どんなときも強い手がかりのほうが好まれる。このことを踏まえたうえで、改めて幾何学図形を使ったピタゴラスの定理の証明について考えてみたいと思う。9年前の数学研究棟でのあの晩の場面を思い起こせば、証明も頭のなかで再現され始めるが、先にも述べたように、図形の内側の三角形の正しい位置を思いだすのにとまとう。
だが、誰かが図形の一部を描いてくれさえすれば、直ちにすべて思いだす。図形の一部という手のほうが、当時の環境の復元によって提供される手がかりに勝るのだ。必要なときに手がかりが提供される世界であれば、このシステムは理想的だと言える。テ、勉強したときの環境をそっくりそのまま気軽に再現できたら最高だ。勉強中と同じ音楽が流れ、同じ日差しの明るさになり、同じ精神状態になれたら、脳がその内容を最初に保存したときに表れていた、内面的な特徴と外的な特徴がすべて再現できたら、これほと素晴らしいことはない。
これは、例の「勉強の救世主」に当てはまると言える。この薬は、摂取する場所、タィミング、量を自分で決めることができる。そして、自分がいちばん必要とするときに、調子が出ない頭を有益な情報でいっばいにしてくれるものだと信じている。
これと同じ理由で、覚せい剤やそれに類するものが心理的な支えとなるケースは非常に多い。だから、研究者たちはドラックを研究に使った。ドラッグは、特定の精神状態を素早く、そして確実に再生してくれる。
ただし、それが最善の方法というわけではない。特定の環境やドラッグに頼らなくても、内面的な手がかりや外的な手がかりがもたらす効果を活用する方法はある。