新たなアイデアが次々に生まれている
この本を通じて、学習のことを完璧にわかっているふりをするつもりはない。
研究はまだ終わっていない。それどころか、全容を複雑にする新たなアイデアが次々に生まれている。
たとえば、失読症はパターン認識の力を向上させる。
バイリンガルの子どものほうが勉強ができる。数学恐怖症は脳の障害による。
ゲームは最高の学習ツールである。音楽の練習は、科学を 理解する力を高める。
このように、たくさんのアイデアが生まれているが、その大半は背景で木の葉がカサカサと音を立てる雑音だ。
この本では、木の幹を追っていく。精査に耐えた基本理論や研究成果にもとづいて、学習する力は改善できることをわかってもらいたい。
思いだすこと、忘れること、覚えること
本書は四つのパートに分かれている。まずは、脳細胞がどのように形成され、新しい情報をどう保存するかを説明する。
脳の仕組みを知ることで、学習がどのように起こるのかを具体的にイメージできるようになる。
学習について研究する認知科学という学問は、思いだすこと、忘れること、覚えることの関係性を明確にしてくれるものだ。
パート1では、学習に関する理論を知ってもらう。
パート2では、情報を保持する力を高めるテクニックを見ていく。
ここで紹介するテクニックは、覚えたいと思うことなら、アラビア文字でも、元素の周期表でも、ビロード革命の主要人物でも、何にでも適用できる。
要は、記憶をとどめるためのテクニックだと思えばいい。
「考えない学習」
パート3では、問題解決力の向上に活かせるテクニックに焦点をあてる。
ここで紹介するテクニックは、数学や科学の個々の問題はもちろん、期末試験、職場でのプレゼンテーション、設計、作曲といった、長い期間にわたって勉強や作業が必要となることにも活用できる。
テクニックがどのように作用するかを、少なくとも科学者たちがどう作用すると考えているかを理解すると、テクニックを思いだしやすくなる。
それに、こちらのほうが重要だが、いまの自分の生活のなかで実際に役立つかどうかの判断もつきやすくなる。
そして最後のパート4では、それ以前のパートで紹介したテクニックの効果を高めるために、無意識を活用する方法を2種類紹介する。
私はこの無意識の働きのことを「考えない学習」と呼んでいるが、これを知れば心強く感じるだろう。
本書を読んだからといって、必ずしも「天才」になれるわけではない。
天才に憧れるのはかまわない。遺伝子、意欲、運、人脈に恵まれた人には、心からおめでとうと言いたい。
だが、そんな曖味なものを目指しては、理想を崇拝して本当の日標を見失いかねない。
この本では、すぐに活用できること、ささやかだが偉大なことについて語っていく。
未知の何かを日常生活に溶け込ませ、自分の内側に浸透させる方法を説く。
学習を日常生活の一部にし、 厄介ごとだと思わないようにすることが本書の日的だ。
それを可能にするテクニックを見つけるために、最新の科学を掘りさげていく。
そうすれば、自分の能力が埋もれているといった感情や、不公平だという感情も消えるだろう。また、学習の最大の敵だと思われている、サボリ、無知、気晴らしといったことが、実は学習の味方をしてくれるということもお教えしよう。