学習を科学するということ
突き詰めれば、精神的な筋肉ー活動中の脳ーの働きを知り、 日々の生活のなかで日、耳、鼻を通じて入ってくる情報を、脳がどのように管理するかを知るということである。
脳がそういう働きをするだけでも不思議でならないのに、それが当たり前のように行われるのだから、驚嘆するしかない。
朝目が覚めるたびに、どれほどの情報の波が押し寄せてくるか想像してみてほしい。
ヤカンのお湯がわいた音、廊下で何かが動いた気配、背中に走る痛み、タバコの匂い…..。
情報が入ってきたら、複数のことを同時に行う命令が下される。
食事の支度をしながら幼い子どもの様子に気を配り、仕事のメールが入ってきたら返信し、友人に電話をかけて近況を報告しあう。
考えただけで頭がおかしくなりそうだ。
こうしたことを一度に行える脳というマシンは、単に仕組みが複雑なだけではない。
さまざまな活動が起こる場でもある。
脳は、蹴り飛ばされた蜂の巣のように、めまぐるしく動いている。
いくつか数字を見てみよう。
人間の脳には平均して1000億個のニューロン (神経細胞)
それらが集まっている領域を灰白質と呼ぶ。
ほとんどのニューロンが膨大な数の別のニューロンとつながりを持ち、絶え間なく交信しながら密接に連携するネットワークをつくっている。
音もなく電気的な信号が飛び交うこの宇宙には、100万ギガバイトの記憶容量がある。
テレビ番組に換算すると、300万番組を保存できる。
この生けるマシンは、傍から見れば「休憩中」のときでさえ絶え間なく活動する。
鳥の餌箱をほんやりと眺めていたり、空想にふけったりしているときでも、クロスワードパズルを解いているときに消費するエネルギーの90パーセント前後を使っている。
眠っているときに動きが活発になる部位まである。
脳は特徴のほとんどない真っ暗な惑星
のようなものなので、地図があると便利だ。
まずは、簡単なものが一つあれば十分だろう。
次ページに紹介する図は、学習の中心となる部位を表したものだ。
「嗅内皮質」は、脳に入ってくる情報をふるいにかける役割を担う。
「海馬」は記憶の形成が始まる場所で、「新皮質」では、保存する価値があるとの信号が発せられた情報が顕在記憶として保存される。
続きを見る→ 【勉強を科学する。②】